ミステリーとか警察ものとか…読んだら書評書いてます

ミステリー、警察もの、組織もの、たまに他の本も、実際に読んでから書評を書いています。川崎市在住 連絡先 oyamaiitenki@gmail.com

たゆたえども沈まず 原田マハ 幻冬舎

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少し目の調子が悪いので、文庫本が読みずらくkindleに手を購入しました。kindle端末ではなくfire HD端末を初体験したのですが、文字の大きさを変えることができるのでいいですね。ただ思ったより重く(カバー込で500g)片手で長時間持つにはちょっと重いです。

さて、この作品ですが、ゴッホと関わりがあった2人の日本人を描いています。(メインの登場人物は、ゴッホ、ゴッホの弟テオ、林忠正、加納重吉」と4人ですが、日本人2人を通してゴッホの生涯を描いているので、2人がメインということにします。史実に基づいたフィクションということですが、原田さんが描くアートの世界ですから、ゴッホの人生は史実に正確でしょう。

明治初期、日本からフランス・パリに渡り、フランス社交界で有名な日本美術専門の画商として活躍してた日本人がいたなんて想像すらしていませんでした。とんでもない日本人がいたものです。林忠正のような日本人が基調な浮世絵を海外に持ち出したから日本国内に残っている浮世絵が少ないと、まるで国賊のように言われていたこともったらしいのですが、彼らが国外に持ち出したからこそ、こんなに世界中で高く評価され保存されているのは間違いありません。明治初期の日本では日本古来の文化は見向きもされていなかったでしょうから、彼らが日本から持ち出したからこそ、浮世絵の芸術性が認められ、尊重さえた、いわば浮世絵を絶滅から救った恩人とも言えるでしょう。

タイトル「たゆたえども沈まず」は パリを表す言葉だそうです。支配者が変わり、幾度となく外敵に攻撃されてもパリはパリであり続けます。おしゃれで時代の文化の最先端を進み続けるパリは不滅ということなんでしょう。そして、ゴッホの優れた芸術性も不滅という作者の気持ちが籠められているタイトルです。そしてパリとはちょとと違いますが、日本から海外に出かけ、苦労をしながらもなんとか成功を治めた日本人たちもまた「たゆたえども沈ま」なかった、忘れてはならない人たちなのです。

林忠正・・ものすごい日本人がいたものです。

 

 

COPY 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 内藤了 角川ホラー文庫

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待ちに待った比奈子シリーズ10作目!最初は新米刑事で頼りなかった藤堂比奈子さんがいまや中堅!でも七味唐辛子の缶が手放せないのは相変わらず。

当初は1作品毎に単発の事件が起きていたのですが、ここ数作品は、世界的な悪の組織「スヴェート」の対決が表に出てきています。保さんがいる日本精神・神経医療研究センターも、シリーズ初期は近未来的な研究施設という印象だったのですが、ここにも「スヴェート」の入り込んで対決の舞台となりそうな雰囲気。このセンターにいる保さん、永久くん、金子くん、にも影人間が迫ってくる雰囲気、そしてこれまで友人扱いだったスサナも味方かどうか怪しくなってきた。と 何やらシリーズ全体の方向性を大きく変えようとしているやに読めてしまうのですが、当シリーズ当初からのファンとしては少し寂しい気がします。やはり刑事ものミステリーは、事件解決までのプロセスが魅力なので、謎解きがあっさりしているとミステリーとしての魅力が薄れるような・・・。

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そして、もう1つ、この作品で驚いたこと! 比奈子と保の関係です。シリーズの前作品で書かれていたのを見逃したかもしれませんが、比奈子と保はプラトニックな関係だとばかり思っていたのですが、そうではなかった! 衝撃でした。ファンとしてはなんか比奈子に裏切られたような・・笑

1作目の「ON」を読み返そうにももう手元にないので・・困ってしまいました。

このシリーズはどこへ向かっているのでしょうか? 初期からのファンとしては内藤さんを信じてついていくだけです。

 

夏の雷音 堂場瞬一 小学館文庫

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珍しく警察が主人公ではない堂場ミステリーです。舞台は神田駿河台。裏道の情景や、古い喫茶店、街の食堂(おそらく学生向けの)など街の様子が丁寧に描かれていてプ~トロも懐かしくなりました。学生時代をこの街で過ごした人にとっては、必読の一冊ではないでしょうか? 

堂場さんこの街の大学の卒業生では?と思いカバーの著者略歴を見るとそうではありません。ひょっとしたら予備校に通っていたのかな…と関係ない妄想。(当時は、あの街で一番偉そうに歩いているのはS予備校生だ!と言われていましたから 笑)

ストーリーは、いわくつきのギターの名器をめぐる殺人事件を、大学教授が解き明かしていくというもの。謎を解いていく過程は、良くも悪くも堂場ミステリーでグイグイ引き込まれていきます。

堂場さんの作品では、調査(捜査?)が進むにつれて登場してくる人物が犯人であることが多く、登場人物同志の意外な関係性が暴かれて事件解決になるパターンが多い、と思うのですがいかがでしょうか?このパターンを頭に入れて読むと、犯人捜しが楽だったりするかもしれませんが、意識しすぎると読書がつまらなくなりますね。

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この作品では、もう一つの堂場ワールドが全開です。もう一つの堂場ワールドとは、モノに対する蘊蓄。この作品の主人公はギターと言ってもいいくらいあるギターが謎解きの主役になっています。「オトコの一理」ではギターのことにはまったく触れられてなかったのに、この作品ではロックとギターに関する蘊蓄が満載です。

逢沢杏子ちゃんも光ってました。

そして、この作品で一番光っていたのは、逢沢杏子ちゃん。主人公の吾妻幹准教授の生徒なんですが、事件解決に一枚からんでいるわけでもないのに、やたらと存在感があって魅力的でした。(単なるプ~トロの趣味かもしれません 笑)もしかしてもう少し活躍させる予定で登場させたのが、活躍する場面が作れなくなったのかも?と想像するのもまたこの作品の楽しみですね。

ギターコレクターの世界にどっぷり浸からせてくれる一冊!神田駿河台で青春を送った人には是非読んで欲しい!

最後に、タイトル「夏の雷音」です。雷音=ライオン なので、ライオンのようなタテガミがふさふさした人物、ライオンのように狂暴な人物が主役?がどこかで登場してくるのかと思って読んでいたら、ちょっと肩透かしを食いました。 まあ正解は読んでのお楽しみということで。

 

奇跡の人 原田マハ 双葉文庫

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あの有名な「奇跡の人」ヘレン・ケラーさんの実話をベースにした、ヘレン・ケラー青森版です。話の大筋はヘレン・ケラー物語とほぼ同じ。最後に「水」「water!」と叫ぶところも同じです。登場人物の名前もサリバン先生は去場安(さりばあん」とヘレン・ケラーが介良れん(けら(へ)れん)となっています。どなたも小さい頃に読んだことがあるでしょうから、なんだ、知っているお話、と思ってはいけません。

原田さんの物語には、もう一人「狼野キワ」という青森の旅芸人が登場します。生まれつき視力がなく、津軽地方の旅芸人の師匠に預けられ、家々を回って三味線と歌を披露し食料やお金をもらって歩くボサマという人たちだそうです。あの津軽三味線の荒々しくて物悲しい音色は、こういう人たちが伝承してきて生まれたのかもしれません。このキワとれんの友情が、この物語のもう一つのストーリーとなっています。この物語では、れんとキワの短かった同居生活から約70年後に、キワを重要無形文化材に指定しようとするエピソードから始まります。

れんと安の物語も実話をベースにしているのなら、キワも実在の人物がモデルなのでは?と思い調べてみましたが、青森の旅芸人が指定された事実はみつかりませんでした。新潟・長岡で「最後の瞽女」と言われた小林ハルさんという方が指定されていました。原田さんは、この人を取り上げたかったのではないでしょうか? この「奇跡の人」では、れんとキワの友情がれんに奇跡を起こし、2人の関係性がこの物語を最後までひっぱってくれています。2人の友情は、原田さんの作品に、ヘレン・ケラー物語には無い魅力を与えてくれました。

 

ドッグ・メーカー 警視庁人事一課監察係黒滝誠治 深町秋生 新潮文庫

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巻末の解説を読みながら、そうそう深町さんって「八神瑛子シリーズ」を書いた人で、「アウトバーン」「アウトクラッシュ」「アウトサイダー」と続く3部作は面白くて一気読みしたんだった、という記憶が蘇ってきました。八神瑛子も、この作品の主人公、黒滝誠治も 狙った情報を得るためには、暴力、違法な情報収集などなんでもやってしまうところが共通しています。しかしこの作品では、やり方がエスカレートしてエグさが増してませんか?好きな人は好きなんでしょうけど、そこまでやってしまう警察って?と思ってしまい、もう少しリアルに感じられたほうが好きです。

登場人物のキャラクターはクセがあってノワールな小説としては面白い一作ですが、執念と暴力だけが印象に残って、何か物足りなさを感じてしまいます。対立集団とのかけひきや、警察内部の神経戦を楽しみたかったような気がします。全体的には定番ストーリーのようで、「おっ!」という意外性が欲しいような・・・でも警察小説としては中の上なんでしょうね。

妥協しない女性キャリア 相馬美貴もカッコいい!

この作品の中で一番かっこいいのは、事件を起こして左遷されていた黒滝を監察係に呼んだ女性キャリアで上司の相馬美貴ではないでしょうか? 長いものにまかれない、自分の後ろ盾になっている上司の白幡にさえ挑みかかる気迫。

次回作は、上司の相馬美貴を主人公にして、相馬+黒滝VS白幡 という構図はいかがですか? 彼女も相当カッコ良く、気にいって読みました。

 

ミッドナイトジャーナル 本城雅人 講談社文庫

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本城雅人さんは初めて読ませていただきました。7年前の女児誘拐殺人事件にもう一人真犯人がいたら・・というキャッチに惹かれて手に取ったのですが、途中からぐんぐん引きこまれていく自分を感じました。期待をはるかに超えた作品でした。大当たりです!

期待を上回る!おススメの1冊です。

本城さんが、19年目にして初めて、元産経新聞の記者というご自分の経験をフルに生かして書いた新聞記者を主人公にした作品だそうです。厳しい現場の緊迫感がビシビシ伝わってくきます。現場の記者は真実だけを追い求めていればいいわけではありません。大きな組織にはつきものの、出世争い、派閥、同じ仕事をしていながら邪魔をしようとするやつ。そしてライバル社との駆け引き。全てが臨場感たっぷりに伝わってきます。

ひとつだけいただけなかったのは「ジャーナル」というキーワード。きっと本城さんの記者時代に出会った強烈な記憶とともにある言葉なんだと思いますが、いまどき「ジャーナル」はないんじゃないの~。

ともかく、主人公の関口に感情移入してしまい、彼を応援し、彼をサポートする後輩たちを心の中で叱咤激励している自分には驚いてしまいました。

結局、関口を不遇に追いやった7年前の真実はついに表に出ることになり、関口の苦労は報われるのですが、その結果、関口が手にしたもの・・・共感するな~。正しい人間が必ず報われるとは限らない、正当な評価をされない実力者は、どことなくハードボイルドでかっこいいです。

新聞記者の熱い心に触れてみてください。

テレビ東京でドラマ化されました。

www.tv-tokyo.co.jp

 

脳科学捜査官 真田夏希 鳴神響一 角川文庫

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大好きな警察小説に新しいヒロインの登場です。神奈川県警に採用された32歳の新人、美人で神経科学博士、心理分析官として採用された第1号。とあって作品の中には脳生理学の難しい用語・・例えば「眼窩前頭前皮質」「間脳視床下部」「大脳基底核」「偏桃体」とか、心理学の難しい言葉「悲嘆の遅延」「代理報復感情」などがいっぱい出てきました。まあ、この難しそうな言葉は読み流して本筋だけを追っていくと、これが結構面白い!犯人とのメールでの駆け引き、犯行予告現場の推理は十分本格的なものと思ってしまいました。(と言っても、こちらが素人なので何を書かれてもウソとは看過できないのですが・・)相手の心を読む刑事は数多くいますが、彼女の心理学的なアプローチのプロファイリングは新鮮でよかったです。

シリーズ(になるのでしょうか?)第一作の登場人物も期待できます。

冒頭で婚活デートしていたイケメンが実は警察庁の理事官だったり(もちろんキャリア)、神奈川県庁の管理官がオタクで自己中心的なキャリアだったり、この後のシリーズにも必ず登場しそうなベテラン刑事とイヤミな若手のコンビだったりと多彩です。そしてなにより、この後も登場して欲しいのは、この作品で夏希の命をすくった爆弾探知犬アリシア!と飼い主の小川です。小川は事件解決の後、夏希が食事に誘ってもまったく興味がないそぶりでアリシアしか目に入っていない様子。ここで夏希の闘争心に火がついてくるとまた違った展開になりそうなんですが・・。

これまでも心理分析を得意にしていた刑事さんは沢山いましたが、顔の表情やクセで犯人のウソを見破る名人ばかりで、ここまで本格的に心理分析で犯人を追い詰める作品はなかったように思えます。あまり本格的すぎると読者が理解できない世界に行ってしまうのでほどほどでないと困るんですが・・。

期待がもてる新ヒロインの誕生!になるでしょうか?